ポール・トーマス・アンダーソン『ファントム・スレッド』(2017、アメリカ、ビターズ・エンド/パルコ)

流麗なカットと音楽に載せて描かれる、ダニエル・デイ=ルイス演じるドレスデザイナーの淡々とした日常と仕事ぶり。

そこにはどこか不穏さがあり、そして美しく、画面をずっと見つめていた。

ヴィッキー・クリープス演じる田舎のレストランのウェイトレスに、それまでの描写にはなかった情熱的な視線を注ぐデイ=ルイス。

彼は「夕食をいっしょに」と彼女に声をかける。

一目惚れの恋に落ちた? そうでもあり、そうではない。

彼は自分のドレスづくりに没頭できる“理想的なマネキン”を見つけたのだ。

そんなのデイ=ルイスの思惑に戸惑いながらも、彼のミューズとして彼の心を得ようとするヴィッキー。

当然ながら、そんな歪んだ関係は、互いの思うように進むわけはなく。


不器用に愛を得ようとするヴィッキーの行為がダニエルの怒りを生み、ふたりが声を荒げて衝突する場面に、観ていて居た堪れない気持ちになった。

相手への(自分の一方的な)期待が裏切られることによって、それまで蓄積されていた互いへの不満が辛辣な言葉になって相手を叩きのめそうとする様子、それは、私と家人が過去に繰り返してきたこととそっくりだったから。

愛や関心を向けられないことに怒りを覚える女と、自分の世界を突き詰めることに注力して女が考える愛情問題などは問題とも思わない男。

それはきっと数多くの男女の間で昔から繰り返されてきた世間一般の普遍的なことなのだろう。

そう考えると、私も年月を重ねて世間相応の人生を送っているのだな、と思いながら観ていた。

ただ映画とは違って、私はドレスデザイナーでなければ、家人はミューズでもない。

わたしたちはただの中年の男女で、この映画のような、諍いのあとに起こるドラマチックな展開も共依存的な愛情関係も存在していないことも判っている。

(2018.06)

YUKI『2人のストーリー』(2010.09.15)

2017年(第90回)の米アカデミー賞は、『シェイプ・オブ・ザ・ウォーター』と『スリー・ビルボード』が作品賞を争った。

受賞したのは、冒頭からラストシーンまでの、脚本/音楽/美術等の全ての要素が全て計算し尽くされた交響曲のような『シェイプ・オブ・ザ・ウォーター』だった。

それに対して『スリー・ビルボード』は、フリージャズのように先が全く予測できない意外性と緊張感が最後まで続き、それだけに“あの”ラストシーンがもたらす安堵感は余韻を残すものだった。

全く別の言い方をすると、『シェイプ・オブ・ウォーター』は、現実世界に見切りをつけた上でのハッピーエンドを描く“おとぎ話”で、『スリー・ビルボード』はバッドエンドを匂わせながらも現実世界の過酷さの中に確かに存在している希望や温もりを最後のシーンで掬い上げた“ドキュメンタリー”という、切り口の違う映画としてそれぞれの価値があったと思える。


自分自身のこれまでの人生/半生における出来事や題材の中から一本の映画を作るとしたら、それはどんなジャンルであり、またどんなラストシーンで締めくくられるだろうか。

物語のジャンルは「青春もの」「立身出世もの」「恋愛もの」と様々なものがあると思うけれど、どのジャンルであっても、自分の物語をバッドエンドで終わらせる人はいないと思う。

哀しい出来事があった物語であっても、それまでの課程の中でいちばん輝いた瞬間をラストシーンとして、その後の哀しい事実はエピローグとしてそっと触れる程度に留めるのではないだろうか。

あるいは、哀しい出来事を描写しながらも未来への希望を託すような終わらせかたを行ったり、その映画の“続編”の存在をほのめかすような締めくくりをするのではないだろうか。

そんなやりとりを、『スリー・ビルボード』を観た古い友達とSNS上でやりとりした。

友達はいろいろあって、自身の物語の続きを紡げるだけのエネルギーを失ったままだ。

私も友人も、最後のページは開かれるどころか、まだ書かれてもいない。



角の犬に吠えられて 銭湯の湯は熱すぎて家

浮気をしては仲直り そしてそれはひどい間違いだった

暮らし始めたら 何かが変わるような気がした

君の古着のスカートをたくし上げたら

愛を じれったいような愛を 渡しあった夜は薔薇色

物語は続く2人の思い通り

最後のページ 開かれないストーリー

ただ君を想い 幸せを願い 暮れゆく黄昏の中にいた

生きてる それだけが 代わりのないストーリー

いつまでも君の横顔を見ていた

(2018.05)

公園の木々、ロックンロールピアノ(2010.05)

家人の体調がここのところ悪く、連休の5日間は初日からずっと主夫モード。
外出は公園、スーパー、ドラッグストア、義父母宅、と居住する町内からも出ておらず。
たとえ体調が良くてもあまり変ってなかったと思う。
息子を連れて人ごみに出かけていけるほどの度量はまだ出来ていない。
今日が連休の最終日。


息子がここのところ、公園でよく遊ぶようになってきた。
と言ってもすべり台と昇り鉄段/渡り網等の複合遊具を、ひたすら登って降りて…の繰り返しばかりだけど。
他の小さな子がいても視線を合わすことはないが、それらの子たちがいないタイミングを見計らって遊ぶような本人なりの”調整力”はついてきた。

ひたすら動き回って本人の電池が切れるまで自由に遊ばせて連れて帰る、のパターン。
この連休は天候に恵まれ日差しも初夏のそれに近くなってきて、夢中で外遊びする息子の熱中症対策等も気になってくる。
しかしふと公園全体を改めて視てみると、ジャングルジムやすべり台等の複数の遊具を日中の時間帯の高い日差しからカバーするように、大木が木陰を作っている。
そうなるように木々が公園内に配置されている。
走り回るグラウンド以外には、ほどよい感じに木陰があり、新緑とまぶしい日差しと青空のコントラストが気持ちいい。
フォト
あたり前のことかも知れないが、単に”広い土地に砂場と遊具を置きました”だけでは子どもが思い切り遊べる公園は機能しない。
同じように、”ハコを作りました”では人は集まらないし、”システムを作りました”でもそれを知らせなければ意味はない。


息子は家にいる時はとにかく、テレビ(録画した『ピタゴラスイッチ』『にほんごであそぼ』etc)ばかり。
家事をしたり体調が悪かったり、大人が相手をする時間がとれないのが一番の問題なのだけど、何とかテレビの時間を減らしたい。
そのための公園遊びでもあるのだけど、CDをかけてみた。
YUKIのアルバム『うれしくって抱き合うよ』(家人の趣味)。
息子は園での室内遊びでもみんなの輪の中には入らないけど、先生が弾くピアノは好きらしい。シングル曲の『COSMIC BOX』が、ロックンロールなピアノがフィーチュアされていて好きになってくれるかな、と期待。

その曲ばかりでなく、しばらくはアルバム全体も聴いてくれていた。

息子の横でピアノ弾きたい。電子ピアノなら納戸にある。引越しの際に売り払うつもりだったけど当時月9で『のだめカンタービレ』をやっていてやはり音楽は大事だと思って持ってきた。
それでも段ボールに埋もれてしまってて段ボールの品々をなんとかしないと引っ張り出すのは無理だけど。
そしてもちろん、練習しなければ無理だけど。
最後にこのピアノに触ったのがもう、8年前の結婚式のときだから。
HANONからやらなければ。
ロックンロールなピアノも弾けるようになりたい。

終盤のピアノが気持ちいい、BAZRA『オレンジ』

田舎に帰りました(2011.08)

【金曜日】

新幹線の出発時間は11:30、10:45に予約していたタクシーで自宅から駅まで移動。
送れるものは前日までにまとめて宅急便で送っていたとはいえ、多少の手荷物はあります。
路面電車・バスにより移動することも考えました(息子は車窓から動く景色を見るのは好きです)が、確実な手段としてタクシーを選びました。

市の障がい者(児)向けの助成制度の一つとして、”公共交通機関での移動支援”があり、金額に上限はありますが毎年タクシーチケットの発行をしてもらっています。
病院に行く際やこういう特殊な移動の際にはありがたく使わせてもらっています。

広島駅に着いて新幹線の改札を通ったのが11:過ぎ。ゆったり余裕があります。
息子はうろうろと動きたがるので余裕がありすぎても少し困るのですが、新幹線の構内の隅っこでしばらく待ってから(搭乗する便が到着する頃を見計らって)ホームに上がりました。

新幹線は1ヶ月前から療育手帳を使って個室(多目的室)を予約していました。
短い時間ですが、帰省ラッシュの時期に個室で帰れるのもありがたい話です。

乗り降り口を挟んでトイレの正面にある多目的室は二人掛けのソファベッドがあります。
ソファをベットにして広げるとそれで部屋がほぼいっぱいになる程度の広さを想像してください。
室内には手洗いやトイレ等の設備はありません。

外の景色が見えればいいのですが、新幹線なのでトンネルも多く、それほど楽しい車窓ではありません。

息子は新幹線は今回が初めてではありません(昨年末に東京まで、やはり多目的室で往復しました)が、小刻みな上下振動(と緊張)で少し気分が悪くなったみたいです。

いつもならパクパクと食べるお昼ご飯も、ほんの少しだけ口にしただけで、私の膝によりかかり、乗車から1時間後に寝入りました。

持ってきていた新聞紙を冷風避けに。室内にあるブザーを押せば乗務員がやってきて毛布等の貸出もあったと思いますが、一度個室に入るとそういうことも”面倒くさい”のですね。 
ドアが開くとそこは通路ですし部屋の中は丸見えになります。自分がトイレに行くのも我慢しました。

息子も眠ったことだし、持ってきた本でも読もうかの…と夏休みの課題図書を広げましたが、ゆっくりする間もなく目的地が近づきました。
1時間眠った息子を起こして部屋の中を片付けてベッドを畳んで、下車準備。

新幹線の終着駅ではなく、その1つ前で降りました。
兄が車で駅から実家まで送ってくれました。

下車すると、ホームばぁばがお出迎え。昨年6月の家族参観以来の、久しぶりの再会ですが、素直に手をつないでくれてまず一安心。

兄と一緒に出迎えてくれたのは姪っ子の小学2年、杏(仮名)です。
ダルビッシュ似のシャープな顔立ちの素直で可愛い子です。
3人姉妹の末っ子で、いつもは世話される側なので、うちの息子にいろいろと世話したくてたまらない様子でした。

実家に帰りついて一休み。実家でスイカはお約束ですね。


兄親子はすぐに帰ってしまいましたが、夜になって、じぃじとも再会できました。

本日は、一休みして、晩ご飯を食べて、お風呂に入って、いつもの絵本を読んで、おしまい。
短い時間ではあったけれど、新幹線での移動という一大イベントを無事終了できて、今日はそれだけでOK。

晩ご飯を食べながら、父母に家人の話をしました。

病気のこと、入院のこと、そして夫婦仲のこと。

なるべく言葉を選んで、家人が悪者にならないように話したつもりですが、重苦しい雰囲気が伝わったと思います。 

話すなかでなにかの結論を出すことが目的ではなくて、状況を聴いて欲しかった。
その目的は、一応達成されたのかとは思います。

【土曜日】

朝ごはんを食べて、町内の散歩に出かけました。

在来線の駅正面から撮影したこの町のメインストリート。…何もありません。
私が20年前まで住んでいたこの町は、国道沿いの温泉街として以前はもう少し建物もあったのですが、近年過疎が進み、道路の拡張工事だけは進んでいます。

この通りも、昔住んでいたころはもっと広く感じていたのに、車が対面通行するのがやっとの狭さです。

かつてはいろいろな店が並んでいた温泉街の街並みも、見通しの良さだけが目立ちます。

…何もないことは判っていましたけど、本当に何もなかったです(苦笑)。

午後からは父母と4人で、車でお出かけ。まずはご先祖の墓参りです。

何かを感じたのか、ちょっとイヤーンな機嫌になりました。

そしてその後は、この夏のメインイベント、”海水浴”です。
地元の海水浴場に浮き輪を持って意気揚々と向かいました。

本人は海を見るのも触れるのも全く初めてです。
海岸から波打ち際に近づくのもおっかなびっくりで、パパが体を抱えて半強制的に海の中に入り、浮き輪にしがみつかせたまま浅沖まで進んでいきました。

約30分弱、泳ぐでもなく”浸かる””うきわで漂う”だけの初体験で、本人も緊張の様子でしたが、そんなに悪くはなかったとは思います。
塩分補給もできただろうし。 
ちなみに海水浴場ではGLAYがガンガンにかかってました。

帰ったらまたスイカ。

ちなみにこの日の夜は、食いしん坊の息子も殆ど晩ご飯を食べようとせず。初めての海経験に神経が高ぶったのかも? 
食べさせるのはあきらめて、夜8時には就寝しました。パパも疲れていましたので…

【日曜日】

夜中から大雨が降り出して、日中も曇天。昨日のうちに墓参りと海に行っておいてよかったです。

曇天の下、何もない田舎の散歩。何もなくともそれなりに草木の匂いや街とは違う空気を感じてくれたかな?

自分が子どもだったころに公園だった場所に行ってみましたが、道路/宅地造成中で公園自体が無くなっていました。
公園の中にあった神社の社もテキトーな感じで仮設されていました。

ドアにくりぬかれた穴から賽銭を投げ入れます。 誰 が 入 れ る か !

午後からは兄の家族ふたたび。

「墓参りに行く」というので、どうせこちらも暇なので、一緒に車に乗せてつれていってもらいました。
2回目の墓参りのあとは海のそばの道の駅の物産館に。

ちょっと疲れたのか、家に帰ってきて夕寝。 
姪っ子は寝ている息子にもやたらとかまいたがり。

姪っ子三姉妹(中2、小5、小2)の通信簿を見せてもらいました。どの子も優秀でした。
中2と小5のふたりはちょうどこの時期に東京に行っていて逢えず。

長女は個性派の腐女子でライトノベル好きの美術部員。
次女は正統派美少女で勉強もスポーツも優秀という完璧超人。でも完璧すぎて、いつか壊れるのんじゃないか、というのが父親の心配。

どんな子どもにでもそれぞれの親の悩みはあります。

晩ご飯を食べていたら息子も起きだしてきました。

兄の家族と息子が逢うのは3年ぶり。
息子が覚えていたのかどうかは判らないけれど、特に戸惑う様子もなく(かといって愛想をする息子でもないけど)、自然にそばで過ごすことができました。
むしろ人がたくさんいて賑やかなことによって、本人も心なしか上機嫌だったようです。

母が食事に出してきた皿のひとつは、約40年前に自分が子どもの頃に使っていた皿。
わかる人にはわかると思いますが、昭和40年代テイストのデザインです。

兄家族は帰り、お風呂に入って、今日もおやすみ。

【月曜日】

もう帰る日です。あっという間でした。
昨夜から雷雨で、JRが動くかどうか少し心配しましたが、昼前になると問題なく雨も止みました。

新幹線の駅まで、在来線の列車に初めて乗りました。人ごみとか大丈夫かな?と少し心配したけれど、外の景色や人の乗り降り(車両の自動ドア)を楽しんでいたようです。

新幹線に乗ってから広島までは再び個室。熊本にさしかかる頃から大粒の雨が降り出して窓に激しく当たるのにビックリしたのか、日除けの上げ下げに忙しい息子でした。

何事もなく無事広島に到着。ふたたびタクシーで家まで帰りました。

*****************

振り返ると、初めての経験/初めてではないにせよ日ごろ馴染みのない土地や出来事、人々ばかりの4日間でしたが、大きな戸惑いや混乱をまったく起こすことなく無事に乗り切ってくれた息子でした。これがもし1年前だったらきっと難しいことばかりだったと思いますが、本人もいろいろなことに余裕ができてきたんだなぁ、と確認できた夏休みでした。

おしまい。

実家で息子が遊んだタオル地の牛のぬいぐるみです。「またおいでね!」

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